2020年5月30日土曜日

2020.5.30  千種創一『千夜曳獏』(青磁社)

千種創一歌集『千夜曳獏』(青磁社)


(かねてから書物の価値というのは内容:造本=1:1だと提唱している私としては) こんなに手に気持ちのよい本は生きてきてはじめてで、何度も触って触った。愛。


鳥がたまに花を食べるじゃないですか、あれ、めちゃうらやましいなと思う

あらすじに全てが書いてあるような雨の林を小走りで行く

朝の河を見たいのだろうセーターの袖で車窓の露を拭って

炭酸がどんどん抜ける夜の港 欲望ならば簡単なのに

梨の花 あなたとなまでするたびに蠟紙のように心を畳む

僕らより長生きをする亀を飼おう。僕らのいない庭を歩くよ

                千種創一『千夜曳獏』より

千種さんの「音楽の話」を見るかぎり、自分とほとんど同じあたりに(音楽というか詩というか、こういうとき「エモさ」と言うといいのか、の)「的」を感じている人のようで、それは『砂丘律』のときに気づいていたことでもあるけれど、この人がいてくれるなら私は安心して短歌を書かないでいられるというものだ。