母親と船に乗る。母親は168cmあり、ふだんはあまりヒールのある靴を履かないが、今日はピンヒールを履いているので、いつもに増して背が高い。というのを、陸から船に渡された板を通るとき、足元を見て気付いた。
船に乗るといってもどこかへ行くわけではない。船は、この湾に停泊させてちょっとした美術展示スペースのように使っている遊覧船のようなもので、我々はその展示を見に来たのだった。
体験するはずのプログラムはふたつあり、ひとつは船内の内覧、もうひとつは教室風にコクヨの机が並べられた部屋で漫画を描いてみるというものだった。本来ならば内覧からの予定だったが、我々は漫画にさきに取り掛かる。むかし手塚治虫記念館ですでに体験したことがあり、すぐに終わらせられると踏んだからだ。しかしそれが見当違いで、二人並んで子供のようにまじめに描いた。鉛筆はどれもとがっていて、ライトが黄色かった。
おかげで内覧はできず、その代わり階段を下りていき、よって船というよりは潜水艦といったかんじの、そのなかでも小さめの簡素な一室へ通された。我々以外にも5、6人の客がいて、みな床に体操座りとなる。そこで始まったのが「尊敬尊重ズ」による漫才だ。
「尊敬尊重ズ」は二人組で、ボール紙でつくられた大きな箱に二人横に並んで入っており、頭側も目元まで隠れるように二人まとめて蓋のようにボール箱がかぶせてあるので、口元だけ見える。
漫才といえども、二人はしゃべることはせず、リコーダーの音色の声マネでハモる。それが大変素晴らしい。胸元にスクリーンが出てきて、そこにはリコーダーの指づかいが映し出される。向かって左がソプラノリコーダー、右がアルトリコーダーの担当であるらしかった。そのうちうしろにもう二人現れて四重奏となる。圧巻だ。とくにソの音がよく響いた。
船を出て、セブンイレブンに寄る。カップにホイル状の蓋のカフェオレを手に取り、会計前にうっかりストローを挿してしまう。中央のレジへ持っていき、「すみません、はやく飲みたくて」と言うと、若い店員さんが「欲望に負けたカフェオレですね」と笑いながら、売っていいものか、一応隣のレジの年長の店員におうかがいを立てる。そこで我々も「隣の客は欲望に負けたカフェオレ客」と、指差しながら言い合う。よく笑った。
#夢