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poem 君に目があり見開かれ
そういうことを4ヶ月も続けていると君はわたしに飽きるので、わたしはもう、いつでも君を嫌いになれる。
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世界に旅立つわたしとその前後のわたしたちについて
君はいつだって風邪をひいてしまうから、わたしは君をおいて世界に旅立つだろう。
ゆくさきざきで、わたしは君を思い出す。
カヌレに出会うたびに君に送ろう。ふたつ手に入ればひとつはわたしが食べて、いちいちコメントを紙袋に書いて送ろう。ひとつしか手に入らなかったときはひとくち齧ってから送る、そうすると君はカヌレの、完璧なかたちでないことを嘆いて食べもしない。
シロクマに出会うたび、シロクマとわたしはツーショットで写真を撮って君にあげる。君はツーショット写真の、わたしの部分を人差し指で隠して、そこにじぶんがシロクマといることを想像して微笑むだろう。わたしは、シロクマは大きくて少し黄ばんでいるのがいいんだよと言うけれど君は聞いていない。
君は風邪をひいているから、リクライニングチェアでずっと映画を見ているか本を読んでいて、完璧なカヌレが届くたびにカヌレを食べてシロクマのように太ってしまう。わたしの唾液でかびの生えたカヌレを、食べない君はしかし捨てるごみばこがないから、君の家はカヌレ屋敷になって、近所からの苦情が絶えず、そのたびに君はわたしからもらった完璧なカヌレを配るようになり、痩せおとろえる。
世界に旅立つ前のわたしはふたりでスキーに行きたかった。だぶだぶのスキーウエアでカラフルなシロクマのようになって、君のご指導でめきめき上達し、ほめられて調子にのりたかった。翌日は日常生活に支障がでるほどの筋肉痛で、5割増にかっこよかった君のスキーしてる姿を思い出してすごしたかった。
カヌレは一度君に買ってあげたことがあった。その代わり、君は宅配ピザを食べたことがなくて、わたしと食べたいと言った。しかしふたりで食べたかった宅配ピザをひとりで食べた君に、だから風邪が治らないんだよと言ったわたしの、包丁で切ってしまった薬指に、永遠にもらうことのない指輪の話を、君にはしないようにしていた。
本当は、埼玉県あたりのラブホに君と行き、宅配ピザとカヌレと、ついでにやらとの羊羹を食べたかった、そしてふたりとも風邪でまっしろなシロクマになって、永遠に黄ばみつづければいいと思っていた。
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『君に目があり見開かれ』選書フェア用リーフレットより
2014年11~12月に書いたものです